悪魔に見捨てられた魔女たち

(とあるサロンの一室。パイプ椅子を丸く配置してそこに参加者たちが座っている。みな一様にげっそりした表情でうなだれている)

ファシリテーター「みなさん、今日はようこそ『脱魔女』の集いにお越しくださいました。この会は、魔女であること、魔女的な状態であることから脱却するお手伝いをするものです。アメリカの断酒会みたいなものだと思ってください。ここでのルールは1つ。否定しないこと。自分の意見と違っても、おかしいなと感じても、ただただ笑顔で、相手のいうことを優しく受け止めてください。議論して何かの正解に至るのが目的ではなく、悲しみや葛藤を打ち明けることで、心の負担を軽減するのが目的ですので。では……。よろしければ、あなたからお名前をどうぞ」

リサ「え、あたしですか……。あ、どうも……。リサです」

一同「ハァイ、リサ」

リサ「え、何か言う……んですか。はい。えぇと……。私べつに魔女になりたいとか、自分が魔女だと思って生きてたわけじゃないんですけど、悪気はないんだけど自分がいると周りの人が怒り出したり不愉快になったりして、自分が何か言うことが相手の逆鱗に偶然、触れたりして。。。怒られてはじめのうちは凹んでたんですけど、だんだん面白くなってきて、いつの間にか、誰かの揚げ足をとったり、茶化したり、そういう2ちゃんねら〜みたいな動き方というかが楽しくなってきてしまって。悪いことなのかなとも思ったんですけど、結局真面目にしたところで誤解されたり理不尽に嫌われたりして良いことないから、ズルズルと惰性でそういう方面というかにハマっていってしまって……」

他の参加者たち、口々に「(ボソッと)わかる!」

リサ「それで……。だんだん気づいていったんです。私、人を怒らせたり、嫌がらせることのほうに才能があるみたいだ、って。どんなに優しい人のことでも狙ったとおりに怒り狂わせることができて。なんかわかるんですよね。ああ、このタイプはここをこう攻めればイチコロ、みたいなのが」

一同「(激しく何度も頷く)」

リサ「それで……。これ、妄想かもしれないんですけど、『間違ってない』って声というか感覚が、すごくあったんですよ。心が高揚して、気分がスカッとして。応援されているというか、追い風みたいな。で、普通だったら意地悪すると意地悪したほうが悪く言われて叱られるとかじゃないですか?なのに私がやると、どういうわけか不思議な力が味方してくれて、私が虐めた相手のほうが悪者みたいな感じに酷い目に遭って自分は無傷、という」

一同、興奮して激同

リサ「それで……。だんだん、『あ、これが私の使命かもしれない』と思うようになって。べつに地球を滅ぼすとかそういうつもりもなくて、普通に人並みの幸せ欲しいなとは思うし、友達と仲良くするのとかも好きだし、感動する映画を観て泣いたりもするんで、根っからの悪人とかサイコパスとも違うよな、とは思うんですけど。でもただ、『綺麗なものだけが世界だと思い込んでんじゃねーよ』とツッコミを入れるのが私の役目、みたいな変な確信があって……」

カナ「あの、いいですか?」

ファシリテーター「いまリサが話してる途中なので……」

リサ「いえ、私はいいですよ。どうぞ」

ファシリテーター、目線で承諾

カナ「あ、すいません割り込みみたいになっちゃって。私もまったく同じで、あ、ていうか私カナっていうんですけど」

(間)

一同「(思い出したように遅れて)ハァイ、カナ」

カナ「うわぁ、ありがとうございます。てっきりみんな私のこと嫌いなのかと思って傷ついてました。あ、冗談ですよ。っていうのが冗談だったりして。あ、ええと、なんの話でしたっけ?ってわからないですよねー。テメエで割り込んどいて何言ってんだバカ女、って感じですかぁ〜?うわー、酷ーい。みんな鬼ですね。って言ってないか。あ、そうだ、話。えーと、なんだったっけ。忘れちゃった。……もー、みなさんが私のほう見るから緊張しちゃったじゃないですかぁ。どうしてくれるんですか(笑)。あ!思い出した!私も使命というかを感じていて、『人の生きる目的は喜びや幸せを噛み締めることじゃない、とことん苦労して、辛酸を舐めることだ』って思うんです。あ、みなさん辛酸って知ってます?辛い出来事って意味ですよ。べつにそういう飲み物とかじゃなくて。あ、知ってる?案外みなさん頭いいんですね。でー、あ、それだけです。終わり!……もー!なんでこんなことさせるのー?おとなしくしてたかったのにぃー。みんな意地悪だなぁ〜」

ファシリテーター「カナさん大丈夫?……はい、ではリサさん続けてください」

リサ「はい。私の使命みたいなのが、やればやるほどどんどん『これだ、これに間違いない』と思えるようになってきて、実際、会社ですごく厳しく後輩とかいびってただけなのにグングン出世させてもらえて、あぁ、結局この世は愛とか喜びじゃなくて、いかにネガティブな力をうまく使うかなんだな、とわかってきたんですよ。これまでは」

一同、上がったテンションが一気に下がり、思い思いに自分の境遇に起きた変化を噛み締めるように呻吟

ファシリテーター「どう……なったんですか?」

ミシェル「あの、もしよければ私が感じた変化を先に言わせてもらっていいですか?もしかしたら同じかな、と思って」

リサ「あ、どうぞ」

ファシリテーター「ではミシェ……」

ミシェル「どうも!あの私、『この世はなんだかんだいってカネだ!カネこそがもっとも尊い』ということを人々に気付かせるのが使命だと思ってあれこれやってたんですけど、ほんとに先月くらいまでは、いろいろあったっちゃあったけど、うまくいってたんですよ。で、私、チャネリングというかを勉強してて、聞こえてくる声のいうとおりに株とかFXとかやったらバンバン儲かってたんですね。それが、急にぱったり、声がしなくなって……」

リサ「同じ!」

ミシェル「やっぱり!?」

リサ「あの、私はチャネリングとかはわからないんですけど、前は、何か意地悪をすると、見えない拍手みたいなのをされて応援されてる感じがして、すごく心強かったんです。それが急にこう、なんていうか……。うすら寒いというか。なんの高揚感もなくて、現実でもまるで私が悪者みたいにぽつーんと責められるみたいな状態になることもあって。こんなこと前は絶対なかったのに。急になんです、ほんとに」

カナ「えー?みなさんもですかぁ〜?私も私も!!私、……これ内緒ですよ?……そうは見えないってよく言われるんですけど、実は人のことを小馬鹿にして『ざまあみろ』って思うような、ちょっと小悪魔的なところがあるんですよ。全然そうは見えないのにね、可愛い顔してるのに、ってみんな言ってなかなか信じてくれないんですけどお〜。それで、あ、ちゃんと信じてくださいね?天使そのもの!みたいな外見なのは自分でもわかってるんですけど、どうか信じてください。はい。その小悪魔的な自分が、それこそ生意気なアイドルがなぜか好かれるみたいな感じで、影で偉い人たちも仕切るみたいな、黒幕みたいに動けてたんですね。こっそり雑談みたいにして偉い人にこう、思ってることを吹き込むとやってくれたりして。それが先月くらいからです。ぱったり、なくなったんですよ。それどころか『何を言ってるんだ君は』と怒られたりして。酷くないですかぁ?それで今はなんか、職場で私だけが可愛いだけで仕事できないみたいな見られ方までされて……。それでなんだろう、ここに来たんです」

ファシリテーター「脱魔女したいと?」

カナ「うーん、魔女?魔女……。魔女ってあれですよね。奥様は魔女とか、オズの魔法使いの綺麗な女の人とかですよね。あー、だったら魔女もいいかなぁー。ってダメですか?え?私、ここに来ちゃいけない人間でした?はやく帰れよクズ、って内心思ってる系?酷ーい」

ファシリテーター「(無視して)ここでは、『悪魔と契約することによって、超感覚的な能力や恩恵を授かるかわりに、悪魔たちの本望である、神の否定という活動に力を貸す生き方をしている人』を魔女と呼んでます」

カナ「悪魔と契約?嘘ぉ、魔女って悪魔じゃないんですか?男が悪魔で、女が魔女かと思ってました」

ファシリテーター「考え方次第ではあるんですが、いちおうここでは、さっき言ったような定義で魔女というものを捉えてます。で、もう魔女でありたくない、という人の活動を支援する会なんです」

ミシェル「え、待ってください。その意味でいうと、脱魔女って、できるんですか?悪魔との契約は、永遠に切れないって習った気が」

ファシリテーター「そういう説もありますよね。どちらを信じるかどうかもご本人に選んでいただくことにしています」

ミシェル「あ、そうなんだ……。私てっきり、脱魔女って、霊能力とかサイキックな能力が下手くそな人のことを指してるのかと思ってました。もっと上に行くには、ということなのかなと思って。『いつまでも魔女と呼ばれて誤解されるようなヘッポコでいるのはやめて、聖人とか教祖と崇められる存在になろう、ってことかと思ってました」

ファシリテーター「ああ、趣旨をうまく納得していただけてなかったようですね。申し訳ありませんが、もし違うと感じたら、ご退室いただいて結構ですよ」

ミシェル「えー、でもどうしようかなぁ。あの、悪魔との契約って、私にも入ってるんですか?私は関係ない?」

ファシリテーター「私側で、悪魔との契約が入っている方のみをエネルギー霊視してチェックして、ご参加いただいてます」

一同「えっ?」

カナ「じゃあ私も悪魔と契約してる?悪魔より下ってことですか?やだ!キモい!!」

リサ「あー、でも私も、それまではまったくそう思ったことないけど、今の話を聞くと、たぶんそうなんだろうな、と不思議に違和感ないです」

サラ「私は最初からそれを見込んできました(ドヤ顔)」

一同、サラのほうを見る。

サラ「話していいですか?」

ファシリテーター「どうぞ」

サラ「あの、私の場合は……。あ、そうだ、名前か。ええと、サラといいます」

一同「ハァイ、サラ」

サラ「私は脱魔女と聞いて、たぶん悪魔との契約が入ってて悪いことをするのが好きで興奮してやめられなくなってる人が、いい加減その状態から抜けたい!と願って来るものだと思ってました」

ファシリテーター「実際、そういう趣旨の会です」

サラ「ですよね?私もこれまで……。あ、個人的なこと話しちゃってもいいんですか?すいません。あのー、もともと宗教的、、、っていうと違うんですけど、スピリチュアルというか、光に向かって歩んでいこう、みたいな思想がすごく好きで、瞑想とかヨガとかいろいろやって、なにかクリアな存在に、穢れのない魂になっていこうと思って生きてたんですよ」

一同、興味をもって頷く

サラ「それで、自分はすごくよかったし、結果もついてきたというか。あるミステリーサークルに入って、魂の修行みたいなことをやってたんですけど、そこの指導員さんたちからも『あなたすごいわね』と絶賛されて、階級もどんどん上がっていったんですよ。でも主人や子供がまったく理解がなくて。特に子供!男の子が2人いるんですけど、2人ともやんちゃで活発で、友達を突き飛ばしたり、ちょっかい出したり酷いんですね。それで、ミステリーサークルでもらった、邪念を払うお灸とかすえたんですけど、主人がそれ見てカンカンに怒って。頭のおかしい変人とはもう結婚していられない!と、スピリチュアルな活動をやめなきゃ離婚だ、くらいの勢いでまくし立てられて」

一同、興味が失せ始める

サラ「それで、もしかして。もしかして!もしっ、かっ、してっ!!ですけど!! 私が間違ってるんじゃないか?って思ったんです」

リサ「あ、わかるかもそれ」

サラ「どうかな。私はべつに悪いことをしようと思ってしてたわけじゃないから。なんていうか、これまで自分は、光のほうへ向かってると思ってたんですけど、それってほんとに光なのかな、って。だって、ほんとの光だったら、家族も理解してくれて、自分のほうでも家族を理解できて……って流れになるはずですよね?なのに、やればやるほどバラバラになっていく。これって、思想というか方向性として間違ってるんじゃないの?というか。いや、どう間違ってるかはわからないんですけど……。あぁ、でも悪魔との契約かぁ。そう言われるとそうだなぁ……。光と思わせて実は、って悪魔の手口らしいですもんね。悪魔じゃなくても、いわゆるワルい人間ってみんなそうでしょう?」

カナ「悪魔は悪魔でいいと思うんですけどね、そういう生き方かなぁ〜って。ダメなんですかね?」

リサ「いや、ダメとかダメじゃないじゃなくて、『報われない』のが問題というか」

ミシェル「(腕組みをして何度も頷きながら)そこ。そこ。」

サラ「私もそう思います。なんていうか、善悪のどっちがいいかと言われたら、無理して善である必要もないとは思うんですよ。何が善かもわからないし。ただ問題なのは、幸せにはなりたいというか(笑)」

カナ「あー!!わかる!!」

ミシェル「その幸せも、人それぞれでいいとは思うんだけど、前、報われてたはずのものが報われなくなってきてることが問題というか」

リサ「ですよね。私は、べつになんとしても悪の道を生きると宣言したつもりもないわけで、真実とかわからないからこそ『世の中でそれがまかり通るってことは、きっとそれが正解なんだろう』くらいのつもりで、無駄なこととか結果が出ないことやってても意味ないから、せめて報われる、結果が出ることをやるしかないと思ってやってたんです。意地悪キャラとかもそうで、事実そうすると報われるからやってただけで」

カナ「意地悪キャラとか大変そう。私には無理」

リサ「(無視して)問題は、それが悪魔なのかどうかもわからないけど悪魔なら悪魔でいいんですけど、そのやり方が通用しなくなった、ってことなんですよ」

ミシェル「そこ!そこ!」

リサ「正直いって、あっけにとられたというか、心外というか、都合いいかもですけど、突然生き方を否定されたスピリチュアル難民、みたいに思うわけですよ。え、これじゃダメなの?という」

サラ「あー。悪いことしたらバチが当たる、とは教わったけど、実際悪いことをやってもバチは落ちないどころかうまくいくし、コツコツ真面目に努力なんかすると損するだけ、みたいのはあるわね」

カナ「これまではうまくいってたんですよォ〜?」

リサ「そう!なんだだろうね?」

ミシェル「急によね。ピタッと」

サラ「世の中にどんな霊的な力が働くかも、その霊的な存在側の意向で変わるっていうから、だから今の流れで言って、もしだけど『いわゆる悪の時代』が終わった的な話だっていうなら、やり方を変えないといけないのかもね。もちろん、光のフリして実は悪だったもの、を相変わらず信奉してる人……私もその1人かもだけど……も」

ファシリテーター「みなさん核心に近づいてきたようですね。今日のハイライトはまさにそこです」

カナ「え?なんですか?」

ミシェル「知りたい!知りたい!」

ファシリテーター「みなさんがおっしゃるように、実は先月のある時点から、この世で人間をエネルギー的にそそのかしていた悪魔たちが一斉に(ry



会合は予定を大幅に過ぎてなお活発な話し合いが展開され、各自の終電近くまで延々と続いたという。
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