ブレイキング・ナイト 〜ホームレスだった私がハーバードに入るまで〜

タイトルどおりの本を読みました。
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ブレイキング・ナイト ホームレスだった私がハーバードに入るまでブレイキング・ナイト ホームレスだった私がハーバードに入るまで
(2012/02/17)
リズ・マレー

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これはいわゆる「成功体験記モノ」的な体裁ではあるけれど、1つの物語としてすごくよく書かれた作品だと思う。
(読み始めてすぐ、『まるでシェイクスピアみたいだ』となぜか直観的に感じたのですが、後半になって著者がシェイクスピアに没頭し、文体の研究などに心血を注いでいることを知って納得しました)

小公女セーラも真っ青のどん底不幸人生。

両親が生活保護を貰う失業者で育児放棄にドラッグ中毒にアルコール依存症にHIVという、もしフィクションだったら「ありがちすぎ/わざとらしすぎ/やりすぎ」とダメ出しをされそうな要素をロイヤルストレートフラッシュ的に持つ環境で、著者は小学校に行く行かないの段階からいきなり家出の浮浪児、登校拒否、基本的に万引きしたもので食い繫ぐ……というロクデナシ街道まっしぐらという有様。

その後も両親から隔離されて施設に収容されたり、ギャングの男とつるんでヒモ女になってみたり、最愛の母を10代半ばでエイズで亡くしたり、ある意味では「ネガティブな属性を帯びたこの世の“豊かさ”を味わうという恩恵をこの上なく享受している」ともいえる生い立ちです。

タイトルを見て結末を知ってるだけに、(ひねくれた)読み手(←私のこと)は「とか言っといて結局はハーバードに入れちゃうわけでしょォ?」と、若干ひいた目線で読んでるわけです。が、描写のしかたが安っぽい御涙頂戴不幸自慢ではなくて、まるでレ・ミゼラブルなどの小説のように味わい深く、一個人の身に起こった不幸を描く体裁をとりながら、万人に共通なこの世の普遍的な真理を織り込んでいるところは、文才ある作家とさえいえそうな……。

もうすぐ本を読み終えちゃうよ、というあたり(著者が17歳のあたりの描写)になってもまだホームレスで社会の底辺を這いずり回っているので、逆に読み手がだんだんハラハラしてくるのですが、そこから心機一転してプレップスクール(≒大学進学への準備学校)に入学し、人が変わったようにオールAを取りまくるあたりで安心しました。
(でも、相変わらずホームレスなのは変わらず、またこれまでマトモに学校に行っていなかったので、『まず、勉強とはどうすればいいのか』を習得しながら課題をこなすのは大変だったことが描写されます。エッセイを書く課題が出たときは、『そもそもエッセイとは何か。どう書けばいいのか』から学び、さらにパソコンのキーボード操作をイチから覚え、短い文章を何時間もかかって書いたというような件があります)

著者がなんでいきなりプレップスクールで勉強をしはじめたかというと、それだけが自分の最低な人生を、環境を変える唯一の方法だと心底、悟ったからというような記述があります。

アメリカの有名大学はどこも軒並み、授業料がびっくりするほど高いわけですが、それに備えてニューヨークタイムズの奨学金に申し込んだところ、(凄まじい倍率をかいくぐって)合格し、新聞に経歴と写真が載ったことで大勢の見知らぬ人々から援助を受けて生活を建て直せたことも、読んでいて心温まるところ。
(そこでも、これまであらゆる人から裏切られ続けてきた著者は、見知らぬ人が見返りも期待せずに親切にしてくれるなんてありえないと最初は思ったことが述べられます。そこから氷が解けるように人の心の温かい側面に触れて人として健全になっていく様子が微笑ましい)

本の4/5くらいがずっとずっと、人を疑い、社会を敵視し、世の中に反発して自暴自棄に破滅的な生き方をした未成年時代を綴っているので、より一層、最後の急速な立て直しが際立ちます。

でも一番、個人的に感動的だなと思ったのは、大学の合格通知が届くのを待つ、最終章。
ちょっとだけネタバレになりますが、合格通知が届くまでは描かないんです、この本。
受験をしたものの、合格者から外れてかろうじて「補欠合格」になり、繰り上がり入学の通知が来るのを何ヶ月も待っている間の描写で終わるんです。
そこでの著者の「ハーバードに合格したくてたまらない病」的な焦りと視野の狭さから来る狂信的な情緒不安定、それに対比するように描かれるプレップスクールの恩師の言葉。それによりハッと目が覚めた著者の「悟りモノローグ」。これがこの本の本質といっても過言ではないとさえいえます。

んー、迷うけど、思い切って末尾の1段落を引用してしまおう。

郵便配達が近づくのを見守りながら、私は気づいた。ハーバードからの手紙は、それがどんな結果であろうと、私の人生をつくりもこわしもしないということに。むしろ、私は理解しはじめていた。ここから物事がどう展開しようと、次の章がなんであろうと、私の人生は決してある環境によって左右されるわけではないということ。これまでいつもそうだったように、人生は、何があろうと一歩ずつ足を前に出し、先へ進もうとする私の意志によって決定されるのだ。


最近出た本だけれど、古典文学のような風格と味わいがあります。

速読でちゃちゃっと済ませたりしないで、じっくり味わって読むのがオススメ。
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